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地下深くに現れる幻の川
「アンダー・リバー」とは?

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大豊建設UNDER RIVER
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幻の川「アンダー・リバー」

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Column

アンダー・リバーコラム

What is
UNDER RIVER?

アンダー・リバーとは?

地下深くに現れる幻の川

年々増える集中豪雨。
コンクリートに覆われた都市の、行き場のない雨水。
その雨水は都市の地下深くにある巨大なトンネルに流れ込む。

その時、幻の川「アンダー・リバー」は現れる。

地下街、地下鉄、地下道路・・・
都市部の地下は、街と同じように、複雑な発展を遂げている。

それを開拓しているのは、大豊建設のエンジニア。

1日10m。
巨大なシールドマシンが、複雑な地下環境を掘りすすめ、
トンネルをつくりあげていく。

地下深くに広がる幻の川「アンダー・リバー」。
それは、都市を守る秘密。

Reason

水害対策が必要な理由

頻発する都市型水害から暮らしを守る
「アンダー・リバー」

交通網が発達し、数百万の人が生活する大都市には、大都市特有の災害があります。
「都市型水害」は近年、都市インフラの課題の一つです。

局地的な豪雨があると、雨水は一気に下水道や中小河川へ流れ込みます。排水処理機能がこれに追いつかない場合には雨水が下水道や中小河川からあふれ出します。
アスファルトやコンクリートで覆われている都市で、行き場を失った雨水は、地表に溢れて都市機能をまひさせ、地下空間を浸水させます。これがいわゆる「都市型水害」です。

近年多発する集中豪雨の影響も加わって都市部の下水処理能力は、その限界を超えることが多くなっています。

年々増え続ける局地的集中豪雨のほか、都市部では地下街や地下鉄などの地下空間が拡大、人口集中などもあり、都市型水害による被害を最小限に抑えることは急務です。都市の暮らしを支えるために、地下貯水施設のニーズは高まりを見せています。

「アンダー・リバー」は、人々の暮らしを支えています。

Today's
precipitation

本日の東京の降水量

999.9mm

気象庁「全国(アメダス)の東京における過去24時間降水量」
( https://www.jma.go.jp/bosai/amedas/ ) に基づくデータ

全国(アメダス)の1時間降水量50mm以上の5年間の平均発生回数
全国のアメダスによる観測値を1,300地点あたりに換算した値

気象庁「全国(アメダス)の1時間降水量50mm以上の年間発生回数」
( https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/extreme/extreme_p.html ) を元に加工

Technology

対策を可能にする技術

複雑な地下環境を
掘り進める大豊建設の技術

「アンダー・リバー」が流れる地下貯水施設。
それは、大豊建設が得意とするニューマチックケーソン工法、シールド工法によって作られています。

ニューマチックケーソン工法とは、函(はこ)型の地下構造物構築を可能にする工法で、ポンプ場、橋梁の基礎、シールド立坑、地下構造物に幅広く用いられています。

シールド工法とは、シールドマシンという筒状のマシンを使って、土を押さえ崩壊を防ぎながら地下を掘り進めていく工法です。先端についたカッターで土を削り、同時に地下トンネルの外壁を作りながらゆっくりと掘り進めていきます。

上下水道、地下鉄、道路トンネルなど都市部の複雑な地下空間に対応するため、当社が独自に開発した泥土加圧シールド工法、泥土加圧推進工法など様々な技術が開発されています。

大豊建設では緻密な計算のもと工法を組み合わせることで、環境、安全に配慮した地下空間を作っています。

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幻の川「アンダー・リバー」

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Column 01

川の下にもうひとつの川を作る。
制約の中で技術が光る「UNDER RIVER 西宮」津門川プロジェクト

津門川の下を流れる「もうひとつの川」を作るためのプロジェクト、「UNDER RIVER 西宮」津門川プロジェクト。UNDER RIVERとは、豪雨の際にあふれる水を受け止め、地下貯留菅に流し込むことで現れる幻の川です。現在、兵庫県・西宮市では、地下深くに雨水を流し込むための貯留施設、「津門川地下貯留管」が着々と築かれつつあります。街を水害から守るため、UNDER RIVERの通り道が作られているのです。

※UNDER RIVER プロジェクト:地下貯留施設を建設することで、街を水害から守るプロジェクト。都市型水害は、都市インフラの課題の一つです。局地的な豪雨などによって、都市の排水処理能力が追いつかない場合、雨水が下水道や中小河川からあふれ出します。人々の暮らしを守るため、地下貯留施設のニーズは高まっています。

そんな「UNDER RIVER 西宮」津門川プロジェクトの整備工事には、クリアすべき制約がいくつも存在する──そう語るのは、このプロジェクトを率いる三野章生所長です。大豊建設は、どのようなハードルを、どのような工夫と技術力で超えていくのでしょうか。三野所長に、お話を伺いました。

大豊・ソネック・田村特別共同企業体
津門川地下貯留管作業所 所長
三野 章生氏

特殊な工事環境と、いくつもの制約の中で

今回の「UNDER RIVER 西宮」津門川プロジェクト(津門川地下貯留管他整備工事)はどのような工事なのか、概要を教えてください。

ごく簡単に言うと、地下深くに「貯留管」と呼ばれる大きなトンネルをつくり、水害を防ぐ工事です。大雨が降って川の水位が上昇すると、上流部の流入施設から「立坑(たてこう)」という穴を通って地下の貯留管に水が流れ込み、浸水被害を軽減する仕組みになっています。

通常、貯留管は道路の下に設置するのですが、今回は川の下に貯留管をつくります。川の下での施工には、道路の下での施工に比べて難しい面があります。施工途中で追加の立坑を掘れないのも、難しさのひとつです。硬い岩が出てきてそれ以上掘削できないというトラブルが起きた場合、道路の下での施工なら、途中で立坑を掘って対策できますが、川の下だとそれが難しいのです。

したがって、何らかのトラブルがあっても到達まで掘削を続けられるよう、シールドマシンの仕様も検討して製作しています。

少し特殊な工事なのですね。

今回の工事には、ほかにも特殊な部分があります。まず挙げられるのは、街なかでの工事であることです。工事区域の近くに大きなマンションが建っており、JRの路線もすぐそばを通っています。このような環境で昼夜問わず工事をおこなうため、地域の方々の生活になるべく影響が出ないよう、いつも以上の配慮が求められます。

さらに今回の工事区域には、灘の酒造りを支えてきた「宮水」が流れています。地域の貴重な資源であるこの地下水を、少しでも汚すようなことがあってはいけません。酒蔵の方や専門家の方とも連携しながら、慎重に作業を進める必要があります。

困難を乗り越えるカギは、コミュニケーションと技術力

さまざまな制約のある環境で工事を進めるにあたり、具体的にはどのような工夫をされているのでしょうか。

騒音や振動については、近隣住民の方とも打ち合わせを重ねながら、最善の対策を追求しています。近隣には10階建てのマンションがあるのですが、防音壁を立てるだけでは上方向に抜ける音を防げず、高層階にお住まいの方々に影響が出てしまいます。そこで、騒音の発生源を全面的に覆う「防音ハウス」をつくり、大きな音などがどの方向にも伝わらないような環境を整えました。また、通学時間は搬入作業を控えるなど、安心・安全の確保を徹底しています。

加えて、JR路線の近接区域で約40mと深い立坑を施工するため、列車の運行や線路などの設備に影響が出ないように進めなければいけません。線路に計測器を取り付けて、異変が発生していないか観測しながら掘削しています。JRとの境界ぎりぎりの箇所で作業をおこなうフェーズもあり、列車が通るタイミングでは工事を止める必要がありましたが、それも見越してスケジュールを組み、現場を前に進めてきました。

宮水の保護については、どのような取り組みをされていますか?

宮水保護の専門組織である「宮水保存調査会」と綿密に連携を取り、酒造組合の方や学識経験者の方のアドバイスをもとに、施工方法を調整しています。

実は当初、宮水保護の観点から工事に対して様々な意見もありました。しかし、宮水を守る技術について専門的な説明を重ね、現場見学の機会を設けるなど、工事への理解が深まるような取り組みを進める中で、「やってみよう」という言葉をいただけるようになりました。

今回の工事は、「ニューマチックケーソン工法で立坑をつくる」「シールド工法で地下貯留管をつくる」「それらを地下でつなぐ」の3段階に分かれます。各段階について、施工方法や宮水保護のための対策を詳しく伝え、問題がないか、もっと配慮すべき部分はないかなど、逐一確認していただいております。

宮水への影響を防ぐ技術について、かんたんに教えていただけますか?

たとえばニューマチックケーソン工法での立坑施工においては、ケーソン底面位置の水圧と作業室内の空気圧とのバランスを徹底管理できるよう、フルスペック設備で作業に臨んでいます。作業室内の空気圧が強くなりすぎて圧縮空気が土中に漏れ出ると、地下水の水位や水質に影響が出るおそれがあるためです。そういった事態を防ぐために、今回は以下のような対策を採用しました。

  • ケーソン内に通常よりも多く水を張ることで、圧力バランスを調整する
  • 空気を回収する装置を2段階で搭載し、仮に空気が漏れた際の影響を最小限に留める
  • 測定器を通常より多く設置して、より細やかに圧力バランスを管理する 
    など

もちろん使用する材料も、水溶性がなく、周辺環境への影響もきわめて少ないものを採用しています。

そして、宮水への影響の有無を調査・分析できる環境も整えています。発進部の立坑の周りに4箇所、到達部の立坑の周りに2箇所、それ以外の周辺部と下流部に11箇所の観測孔を設置して、工事の影響がないかをチェックしているのです。これらの観測孔は、地下水層の土質に応じて異なる深さで掘られていて、それぞれの土質に影響が出ていないかを調査できるようになっています。

今も、現場作業を進めながら、調査会の方々と相談して施工方法を変えるなど、柔軟に宮水の保護に取り組んでいます。

地域に歓迎される
プロジェクトであるために

近隣住民の方は、今回の貯留管工事についてどのように捉えておられますか?

「工事が少しでも早く完了して、安全な環境になってほしい」という声を多く頂戴しています。この地域では過去に大きな浸水被害を経験しており、住民の方の防災意識も高いように感じます。最近は地域のハザードマップが充実したこともあって、さらに防災への注目が集まっているのではないでしょうか。

西宮市では大規模な貯留管の整備「合流貯留管整備事業」が実施されてきましたが、兵庫県の主導でこれほど大きな貯留管工事をおこなうのは今回が初めてだと聞いています。市と県がタイアップして、さらに防災を進めていこうという機運を感じますね。

地域にも歓迎されているのですね。

しかし一方で、長期間の工事だということもあり、住民の方々に不便をもたらす場面も多いと思っています。例えばこのあたりには昔からの街並みが残っていて、細い道路も多いのですが、そういった道路は一定期間、完全に通行止めにする必要が生じるのです。

ご迷惑をおかけしながらも今回の工事をおこなう意義をご理解いただくため、現場に密着し、誠意をもって対話を進め、看板や警備員を増やすなど、工事による不便をなるべく減らせるように努めています。

また今回の工事は、地面の下でおこなう工事ですから、「何をやっているのか」が地域の方々に伝わりづらい部分もあると思います。現場見学会を設けたり、工事に関するPRに協力したりと、皆様に工事のことを伝えられるよう工夫していきたいですね。

今回のプロジェクトへの思いや、今後の展望についてお聞かせください。

今回は、ニューマチックケーソン工法や泥土加圧シールド工法など、大豊建設が得意とする工法を用いたプロジェクトです。しかし一方で、街なかでの施工であること、宮水を守らなければならないことなど、いつもと異なる制約が課せられています。

こういった制約の中で、地域の方々と話し合いながら工夫を重ねた経験は、今後ほかのプロジェクトにも活きてくると思います。今回の工事を必ず成功させて、一段と進化した技術や経験を、未来へとつなげていきたいですね。

Column 02

酒造りの文化ごと、地域を守る。
防災工事における「宮水」保全の取り組み

今回の工事の目的は「地域を水害から守ること」。しかしそれと並んで、「宮水を守る」という大きなミッションも課せられました。宮水は、日本酒造りに適した水として、西宮はもちろん、広く灘五郷で大切にされてきたとても貴重な資源です。

今回は、宮水保存調査会にて副会長と調査委員会委員長を兼任されている農学博士の家村芳次さんに、宮水の特徴や保全の歴史、そして今回の工事での保存調査会の活動についてお話を伺いました。

宮水保存調査会 副会長兼調査委員会委員長 農学博士
家村 芳次氏

この立地だからこそ湧き出る、奇跡の「宮水」

家村さんは「宮水保存調査会」のメンバーとして今回の工事プロジェクトに関わっておられますが、そもそも「宮水」とはどのような水なのですか?

「宮水」はもともと「西宮の水」の略で、その名の通り、西宮の特定の地域から湧き出る水のことです。古くから灘五郷での日本酒造りに使われており、灘の酒を美味しくする水として知られています。

灘五郷は、北に六甲山を望み、南は大阪湾に面した地域で、その海岸沿いに酒蔵が並んでいます。この地域は全体的に地下水が豊富で、水質にも恵まれているのですが、その中でも西宮郷の特定の地域から湧く水が「宮水」と呼ばれ、重宝されているのです。

この宮水が湧くところには、灘五郷の酒蔵がそれぞれ自社の「宮水井戸」を持っています。つまり灘の酒蔵は、わざわざ西宮から酒蔵まで宮水を運んで、仕込み水として使っているわけですね。

酒造りに宮水を使う慣習は1840年、江戸時代の末に、櫻正宗の当主・山邑太左衛門がある発見をしたことから始まりました。山邑太左衛門は、西宮郷と魚崎郷の両方に酒蔵を持っていましたが、毎年、なぜか西宮郷の酒のほうが美味しく仕上がることに気がつきます。酒米の違いが原因なのか、杜氏の違いが原因なのか……いろいろと調べた結果、仕込み水に違いがあるということを突き止めました。それ以降、山邑太左衛門は、魚崎の酒蔵にも西宮の水をわざわざ運び、仕込み水に使って酒造りを始めます。こうして仕込んだお酒が、当時の大消費地であった江戸で大変高い評価を得ました。以来、灘の酒造家は競って宮水を使うようになったのです。

宮水を運搬するための「水樽」に宮水を詰める様子
(灘酒研究会 灘の酒用語集より)

宮水の入った水樽を船で酒蔵に運ぶ様子
(灘酒研究会 灘の酒用語集より)

灘の酒は「秋あがりの酒」「秋晴れの酒」と呼ばれます。真冬に仕込んで貯蔵しておいたお酒が、翌年の秋を迎えると、新酒のときよりもはるかに美味しい酒へと熟成変化しているという意味です。灘の酒のこのような性質も、宮水を使うことに由来するのではないかといわれています。

なぜ宮水で仕込んだ酒は上質に仕上がるのでしょうか。

ひとつめの理由は、宮水が「硬水」であり、ミネラル分を多く含んでいることです。日本は大変水に恵まれた国で、全国各地に名水が湧き出していますが、その多くはミネラル分が少ない軟水です。灘五郷一帯の地下水も、大部分が軟水であることがわかっています。

ところが灘五郷の中でも、西宮郷の限られた地区で湧き出す水のみが硬水で、カルシウムやマグネシウムなどのミネラル分が多いのです。これらのミネラル分が多いと、日本酒の「もろみ」のなかで麹や蒸米が溶けやすくなり、酵母による発酵も促進されます。

宮水が酒造りに向いているもう一つの理由として、鉄分含有量が極めて少なく、ほとんどゼロであることが挙げられます。鉄分は、お酒の品質を下げてしまうため、酒造りでは絶対に避けたい成分です。

このように、宮水には酒造りを助けるミネラルが多く、かつ酒造りの害になる鉄分をほとんど含まないので、日本酒の仕込みの水として最適だといわれているわけですね。

ごく限られた地域でのみ、そういった性質の水が湧き出してくるのは不思議ですね。

3つの流れがブレンドして「宮水」の水質が生まれる

なぜ特定の地域でのみ性質の違う水が湧き出すのかは、長いあいだ謎のままでした。しかし現在では、3つの伏流水(地下水)が混ざり合うことで宮水の水質がつくられるのではないかと考えられています。

宮水が採れる場所の北からは「札場筋伏流」が、北東からは「法安寺伏流」が流れてきます。これらは、かつて海だった場所の地層を通って流れてくるため、カルシウムやマグネシウムといったミネラル分が多いのですが、酒造りには適さない鉄分もやや多く含まれています。

そこに北西から、ミネラルは少ないものの酸素がたくさん溶け込んだ「戎伏流」が流れ込んできます。すると、戎伏流の酸素のはたらきによって、札場筋伏流・法安寺伏流に含まれる鉄分が酸化して沈殿し、地下の砂層で濾過・除去されます。その結果、カルシウムやマグネシウムは多いけれども鉄分は少ないという、宮水の水質ができあがるのです。

人々が知恵を出し合い、宮水を守ってきた

宮水を守る動きは、いつ始まったのですか?

大正13年ごろに「宮水保護調査会」という組織が発足したのが始まりです。当時は非常に景気がよく、お酒が次々と売れるため、宮水を使ってどんどんお酒を仕込むうちに、宮水が足りなくなってきたのです。これはどうにかしなければということで、兵庫県知事を会長とする組織を作り、灘五郷の酒蔵が一丸となって宮水を守る取り組みをはじめました。

昭和に入り、第二次世界大戦が始まるとお酒の製造量も減ったので、宮水不足の問題も自然に解消します。しかし戦後、経済成長が始まると、別の問題が生じました。西宮港の浚渫工事、埋立工事、西宮市全体の開発工事などが進むにつれて、宮水をとりかこむ環境が悪化してきたのです。

その対策として昭和29年に結成されたのが、現在まで続く「宮水保存調査会」です。西宮市長を会長として、灘五郷酒造組合の方々、そして私のような学識経験者も加わり、地域の大切な資源である宮水を後世まで伝えていくために様々な活動をしています。

現在、宮水保存調査会では主にどのような活動をされているのでしょうか。

ひとつめの大きな活動は、地下水調査を通じた宮水の動向分析です。冬季・夏季と定期的に一斉採水を実施し、灘五郷酒造組合の各社の技術者が集まって分析をおこないます。酒蔵さんが保有する井戸水はもちろん、周辺住民の方にもご協力いただき、近隣の民間の井戸水も採水しておこなう大規模な調査です。

ふたつめの活動が、周辺地域での工事にかかる宮水保全活動です。これは、宮水にとって特に重要なエリアである「宮水地帯」の周辺、特に地下水の上流域で土木工事などを行う場合の活動です。

工事前に開発事業者と宮水保存調査会とで協議し、地下水に与える影響を最小限に留めるためにはどのような対策を取ればよいか検討します。また、工事開始前、工事中、工事終了後を通して地下水の状態を観測し、異変がないかをチェックします。

このように工事と宮水保護を両立するための協議・調整の仕組みは、平成30年に施行された「西宮市宮水保全条例」によって制度化されました。ただしこの条例には、「この工法にしなさい」「これは禁止です」といったことは一切書いてありません。単に「必ず宮水保存調査会と協議しなさい」「調整しなさい」と定められているのみです。

つまり、「お互いに相手のことを考えて、知恵を出し合い、宮水の保護、保全と地域の発展の両立を図る」という理念が宮水保存活動の根幹にあり、「その方法を共に考えましょう」というのが、宮水保存調査会の趣旨だと思っています。

酒造りの文化も含めて地域を守る防災工事へ

今回の工事ではどのように協議がなされ、どのような対策が採用されたのですか?

宮水地帯の工事といえばその多くがマンションなどの建設工事であり、工事のパターンも、取るべき対策もある程度は決まっています。しかし今回のように、水害対策のための貯留施設を地下につくる工事は初めてです。どういう対策を取れば、宮水を守りながら工事を成功させ、地域の安全も守れるのか、手探り状態で協議を進めてきました。

この度の工事では、地下20〜30mと、地下水が流れる層よりも深い場所に、水を貯めておくためのトンネルをつくることになっています。したがって、工事が地下水と直接ぶつかることはないでしょう。しかし見方を変えれば、今回の工事は地下水の「池」の下にトンネルを掘るようなもの。万が一、地下水の「池」の底に穴が空いて水が抜けてしまったり、水質に影響を及ぼす物質が溶け出してきたりしたら大変です。
したがって今回は、地下水の水位や水質に影響を及ぼさない工法を採用いただいた上で、施工中にも、なにか異常な変動が生じていないか、随時チェックできる体制を整えました。

工事区域に、直径10cm弱の調査用の井戸をいくつも掘っていただき、それぞれの井戸で地下水の水位・水温・水質の変化を測定しています。水質については、酒造りに直結する項目として、pH・比抵抗・全アルカリ度・全硬度・塩化物イオン・全鉄・有機物の7項目を見ています。

地下水の状態は季節によっても変動するので、「この値ならOK」という基準が設定できるわけではありません。どれが通常の変化で、どれが工事の影響による変化なのかを見極める必要があります。また、工事で一時的に状態が変化することがあっても、それが長期的に水質に影響を及ぼすのか、それとも一過性のものなのか、という判断も必要になります。

長期にわたる工事なので、工期の中で何度も打ち合わせを重ね、少しでも異変が生じていないか、しっかりとチェックできる体制を整えています。

今回の工事は、街を災害から守るための工事です。宮水が災害の影響を受けたこともあるのでしょうか。

宮水地帯にとって一番被害が大きかったのは、室戸台風です。先程も申しましたが、酒蔵は海岸線沿いに立ち並んでいるため、宮水井戸も海岸に近いエリアにあります。室戸台風の際には高潮が宮水井戸を襲い、井戸の水の塩分濃度が上がってしまい、しばらく仕込みに使えなかったことがありました。

この話をすると、阪神・淡路大震災のことを心配してくださる方がおられますが、震災のときには、井戸の被害は意外と小さく済みました。むしろそのときこの地域で大変だったのは、水道が何か月も復旧しなかったことです。お風呂に入れず、トイレの水も流せない。飲水は救援物資として送られてきましたが、それ以外の雑用水がとにかく不足していました。
そのとき役に立ったのが、酒蔵にある井戸です。大きな災害でお酒の仕込みも止まっていたので、宮水井戸の水を近隣住民の方々に提供できたのです。また酒蔵には、多いときで100人以上の季節従業員が来ることもあって、大きなお風呂があります。この大きなお風呂を沸かして地域の方々に入っていただき、非常に感謝されたと聞いています。

災害時の対応も含めて、酒蔵が地域を支えてきた歴史があるのですね。

そうですね。今回も、酒造りの歴史や未来も含めて地域を守ってくれる防災工事が無事に、宮水に影響を及ぼすことなく実現するよう、最後までしっかり見守っていきたいと思います。

Column 03

地下41mの巨大トンネルの役目とは。
地域と宮水を守る地下貯留管を地域住民の皆様にお披露目

1999年、2013年に集中豪雨による内水氾濫があった兵庫県西宮市の津門川。その地下深くで、現在「二級河川 東川水系津門川 地下貯留管他整備工事」が行われています。この工事は、水害から地域を守り、地域の文化を育んだ「宮水」へ配慮した取り組みを進めています。5月20日(土)には地域住民の皆様に本工事について理解を深めていただけるように、普段は一般公開していない貯留管内部の見学会を開催しました。

二級河川 東川水系津門川 地下貯留管他整備工事
2023年5月20日(土) 説明会&現場見学会開催

街なかで行われている知られざる地下工事

見学会には1歳のお子さま連れのご家族から80代の方まで多くの方にご応募いただき、抽選で64名の方にご参加いただきました。

「近くに見たことのない建物があり興味をもった」「マンションの隣を通過すると聞いていたので見たかった」「近所の工事なので、詳しく内容を知りたかった」「こどもに見せてあげたかった」など、街なかで行われている工事への関心は高く、皆様、興味津々の面持ちでした。

見学会ではまず、今回の工事の説明を行いました。集中豪雨による内水氾濫対策として津門川の下に掘られている貯留管工事の全体像を説明し、どのように街を水害から守るのか、また、地域の文化を育んだ灘の地酒の仕込み水「宮水」を守るため、宮水保全委員会と相談をしながら慎重に進めており、日頃の水質調査も細心の注意を払って進めていることなどを説明しました。そして、それらの工事を支えている大豊建設の得意技術である立坑を掘る「ニューマチックケーソン工法」と、横坑を掘る「泥土加圧シールド工法」と、その技術を活用した大豊建設の「UNDER RIVER」プロジェクトについてもご紹介しました。

参加者の方は、「氾濫が発生したら大変なことなので、少しでもこういった施設で防止できればありがたいです」「現在の地球温暖化の状況を考えると、いつ何が起こるかわからないので、とても心強いです」「宮水を守ることまで知らなかった」「西宮にとって宮水は宝なので、守ることが大事」「酒所として大切なこと」と話してくださいました。

いよいよ深さ41m、横坑400mの地下空間へ

早速、現場見学へと向かいます。
工事現場は深さ41m、横坑400mまで進んだ地下トンネルで、辿り着くのも一苦労です。

白く大きな防音ハウスのゲートに入ると突如現れた大きな立坑に「すごい、の一言ですね」驚きの声が聞こえてきます。下を覗くと大人でも足がすくむ高さ。

仮設エレベータで2名乗り。そのため、長い階段を使って降りた方もいらっしゃいました。立坑の底に着き、見上げるとそのスケールは圧倒的です。

ここから、400m先のシールドマシンを見にトンネル内を歩きます。

トンネル内のところどころに「地上の風景写真」が貼ってあり、「もうここなの?!」とご自宅の近くまで掘られていることに驚いている方もいらっしゃいました。

トンネルの先端に着くと、今、まさに地下を掘り進めている巨大シールドマシンが現れました。
(見学会当日は、シールドマシンの運転は停止しています)

皆様かがみながら、シールドマシンの奥まで覗き込んでいます。

そのとき、小学生から「川の水はどうやって入ってくるの?」と質問がありました。現場の職員から、横坑を掘り終えたら津門川の上流に流入施設を整備して、大雨で増水した川から水が貯留管へ流れる仕組みになっていること、大雨が落ち着き、津門川の水位が正常値へ戻ると、今度は貯留管に溜まっている水をポンプでくみ上げて川へと戻すことなどを説明しました。

掘削操作に真剣な眼差し

当日は、貯留管の見学の他にも、シールドの世界観をバーチャルで体験できるVR、そしてニューマチックケーソン掘削操作ができるシミュレータ体験を楽しんでいただきました。
このシミュレータは、ニューマチックケーソン掘削機の実際の操作を習得できるように作ったもので、よりリアルな作業環境に近づけるため、大豊建設がゲームメーカーと協業して開発したもので、高性能な仕上がりとなっています。

大人からこどもまで、VR体験に真剣です。その隣では、こどもたちがシミュレータに夢中になっていて、とても上手に操作していました。「こどもは本能的にできるのか、勘所が良いですね。大人は頭で考えすぎちゃうのか、こうゆうゲーム感覚の操作はこどものほうが上手ですね」と微笑みながらお母さんも見守っていました。

実際に、同様の操作盤で遠隔操作して掘っていることを伝えると、驚いた様子で楽しんでいました。いつか現場で操作する日が来てくれたらと、期待してしまいます。

完成まで5年と工期の長い工事のため、工事についてより理解を深めていただくことができればと思い開催した見学会でした。参加者からは、水害について「避難指示や今回のような工事があれば助かると思う」「台風、大雨の時は不安になる」「マンションの地下に電気・水設備があるので氾濫は避けたい」「河川管理維持の大切さを感じる」など様々なご意見を伺い、この工事が少しでも住民の皆様の安心に繋がることを、強く思う見学会となりました。
ほかにも、今回の見学会に関してさまざまなご感想・ご意見をいただきました。

「想像以上の工事規模で大変興味深かった(50代)」
「すごく大規模でびっくりした。安心感に繋がった(60代)」
「大掛かりな工事で、本で工法は知っていたが実際に見学できて有意義だった(30代)」
「近所で子供に工事現場を見せたかったので、とても貴重な体験になった (30代)」
「環境保全と防災対策は両立させることが重要(40代)」

今回の見学会を通して、改めて住民の皆様の声を伺い、工事職員関係者一同、身が引き締まる思いです。大豊建設では、これからも水害対策とともに、地域の文化にとって大切な宮水を守りながら、2025年の完成を目指し、安全に工事を進めてまいります。